イギリス、ヨークシャー州の炭坑町で、炭坑の事務長の父、看護婦の母と暮らす少年ジョン。一人ぼっちだったジョンはある日、町はずれでコリー犬の子犬を見つける。その犬、ラッシーはジョンのかけがえのない友となるが、ある事件をきっかけに離ればなれに。ラッシーは、ジョンのもとに戻るべく長い旅路につく…。映画でも有名な、エリック・ナイトの原作をアニメ化した、1996年放送作品。 1年間続くのが定例であった「世界名作劇場」にあって、この作品は途中打ち切りの憂き目にあってしまったのだろうか、全体としての話のバランスがいささか悪い。話のキモであるはずのラッシーの旅が、最後のほんの数話で語られているのだ(そういう意味では、再編集して後半をまるまるそれに割いた「完結版」の完成度は高い)。ちなみに最終話の第26話は、TV放送も叶わなかったそうだ(DVDでは、第6巻に収録)。 しかしながら、ジョンとラッシーが信頼を重ねていくエピソードは心なごませ、まぎれもない「世界名作劇場」印。ラスト近くの、ひたすらジョンのいる場所に向かって歩き続けるラッシーの健気さ、そしてラッシーの帰還を信じつづけるジョンの純粋さも胸を打つ。(安川正吾)
それはきっと誰の中にもある“終わらない物語”
本放映があの『ロミオの青い空』の直後だったこともあり、人によっては問答無用で「駄作」「代わりにロミオを続行すれば良かった」などと手厳しい評価をされた、名劇の中でも複雑な立場に置かれた作品です。エピソードの大半はアニメオリジナルで、舞台となる村で繰り広げられる、仲間たちや人々の些細な事件や心暖まるエピソードを描いてます。同系統の『アン』や『トム・ソーヤー』があくまで原作がそのスタイルだった為表現に説得力があったのに対し、この『ラッシー』はオリジナルのせいか、現実的でありながらどこかロマン化されたような、『名劇』とも『娯楽アニメ』とも取れない独特な作風に仕上がっています。 スタッフは子供が楽しめるように暗い雰囲気の原作をアレンジしたそうですが、作中には時折妙にリアルな大人世界を描写した箇所もあり、また『ピーターパン』『ティコ』のように開き直った娯楽性を追及したワケでもなく、子供たちに受け入れられたかどうかは疑問です。極めつけは『ロミオ』『セーラ』のような美少年・美少女も存在しない(厳密には一人いるが…)ので“その方面”のウケも良くはなかったでしょう。 ―ではこれは失敗作だったのでしょうか?…決してそうではないと思う。EDの曲がどこか切なげに過ぎ去ってしまった少年時代の追憶を愛おしく謳っているように、これはどちらかと言えばもう大人になってしまった人間が、追憶の片隅にある、宝石のような綺麗でささやかな子供時代の想い出を謳った物語なのでしょう。いつも一緒だった三人と一匹が、新しく友達になれた伯爵家の令嬢と小さな冒険に出かけたり、一緒にケーキを作ったりするような何気ない出来事がヤケに輝いて見えるのは、スタッフの方々が自身のそんな追憶を慈しみ、また子供である視聴者たちに、彼らにとってのそんな些細な“今”を大切にしてもらいたいと、心のどこかで願っているから―そう感じさせるような作風でした。
バンダイビジュアル
名犬ラッシー 6 [DVD] 名犬ラッシー 5 [DVD] 名犬ラッシー 4 [DVD] 名犬ラッシー 1 [DVD] 名犬ラッシー 3 [DVD]
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